糾える縄の使いみち

今日もまた夢を見た。特訓や鴉への身バレでそれなり疲れているはずなのに、眠りが浅かったようだ。
病床の先生と、己の無力を悔いる弟子達。そこに、イチガキと名乗る耳の尖った男が割り込む。先生を助けるために、三人の弟子が指名される。“ごくごくカンタンな実験”のために。


「……変な夢だったな」

私とシンクロしたように、隣のお兄ちゃんが頭を掻く。頷くと「お前も?」と確認される。
朝の支度を終えた幽助に兄が語った夢の話は、不思議なことに私が見たものとまったく同じだった。

「──って夢なんだけどよ」
「イチガキ……どっかで聞いたよーな」

イチガキ……ってたしか、昨日見せてもらった対戦カードに乗っていた、今日の対戦相手じゃなかったっけ?しかしそう文字に起こす前に話題はそれてしまった。

「ところで蔵馬と飛影は戻らずじまいか」
「ああ。、ベッド借りてよかったんじゃねーか?」

夜のうちに戻ってくると思ったので、今日もわたしはお兄ちゃんと寝たのだ。彼は寝相が悪いから眠りが浅かったのもそのせいかもしれない。でも身内でもない男の子のベッドを勝手に借りるだなんて、それは女子中学生としてどうかと思うからやらないけど。

「よっしゃ行くか!!」

立ち上がる彼らに、まだ缶のほうじ茶を飲み終えていないわたしは慌ててぐいぐいと飲み干す。しかし悲しいかな、生きている人間である以上生理現象が訪れる。ほうじ茶は緑茶が元だから、強い利尿作用がある。女性の膀胱は男性より短いから、トイレも近い。つまり、トイレいきたい。

「ん、なんだもじもじして。ションベンか?」
(!!)

当たっているけど、当たってるけどもうちょっとデリカシーとかはないのだろうか。

「んじゃ先に行ってるぞ」

そう言ってぞろぞろと出ていく3人を見送る。はやく追いつけるように、わたしはトイレに駆け込んだ。


用を足したあと、部屋を出てももう誰もいなかった。フロア自体がとても静かだ。みんな会場へ向かったのだろう。
ホテルのフロントにもスタッフしかいない。通り抜けて、会場へと足を進める。遠くに見える会場は、足元こそ木々に隠れていて見えないが、 それさえなければ場外モニタで試合風景を観戦する人達が見えたはずだ。彼らの喧騒だけはここまで届いていた。

(あ、パス!)

入場用のパスを部屋に忘れてきてしまった。最悪顔パスでもいけそうだが、というかお兄ちゃんたちと入場する時はなにも提示せずに入場しているのだが、一人である今は変ないちゃもんをつけられたら困る。仕方ないから1度部屋に戻ろうか……なんか今日はスムーズに物事が進まないな。出鼻をくじかれっぱなしだ。
部屋に戻り、ベッドの脇に置いていたパスをバッグにしまう。
再び部屋から出ようとした時に、声が聴こえた。


────魁……梁、円……誰か……。


(!?)
男の人の声だ。擦れて、今にも消えてしまいそうな、老人の声。誰かに助けを求める、なにか光明を探す声。
(だれ……?)
話しかけられたわけじゃない、本来は聞こえないはずの声。
土を掘るような音、硬い鎖が擦れる高い音。打ち付ける波の音。誰もいない部屋の静寂の中で、どんな音よりもはっきりと聴こえた。
(西からだ……)
西にあるのは岸壁だ。波の音がしたから、確かにそのあたりだろう。そんなところで誰が何を呼んでいるのか。
わたしは声を便りに再びホテルを出る。今度は闘技場と違う方角、西にそそりたつ険しい崖へと向かった。


(なにもない……)

木々が密集した、森とも言えない小さな自然を抜けて辿りついた崖は案外近かった。
声は未だに聞こえるし、先程よりもずっと近くから響いている。しかし、ここにはなにもない。
帰ろうかな……。そう思い、小さな森に向かおうとしたところで、ガサガサと大きな気配がした。
(!?)
人らしきなにかが木々を分け入る音、その向こうから大きなロボットがやってくる。待って、世界観違うんじゃない!?
逃げようとしたけれど、私の背後には崖がある。目の前には得体の知れないメカ。逃げ場はない。
茂みから先行して黒髪の妖怪が飛び出してきて、私を見つけて驚いた顔をする。

「テメェ、浦飯Tの……!」
(!!)
ちゃん…!?」

妖怪の背後から迫っていたモノアイの機械の上に、蔵馬さんと飛影さんが乗っていた。

「どうしてここに……?いや、今はそれどころじゃない」

言外にあとでじっくり話を聞くからな、と念を押して、蔵馬さんは機械から降りた。

「おい、恩師はどこにいる?」
「この岸壁の横穴に監禁してある!本当だ!」

妖怪の男を完全に掌握しているらしい蔵馬さんは、「お前が先行しろ」といって崖の縁まで妖怪を追い詰めた。妖怪は少し躊躇ってから飛び降りる。のぞき込むと、切り立った崖の1部だけが都合よく足場になっていて、妖怪の男は「ここだ」と言って足場から崖の中に続く穴に入っていく。垂直だから、ここからじゃ穴はよく見えないが。
「俺が行く。飛影、彼女を頼む」
機械と飛影さんと私を置いて、蔵馬さんは飛び降りた。すとんと足場に降り立って、妖怪に続いて中に入っていく。
残されたわたしは機械を見上げる。機械というより、鋼で出来た生き物みたいだ。
「なぜ貴様がここにいる」
『声が聞こえたから』
「声──?」
飛影さんは考え込むような仕草をする。むしろなぜ彼等は試合会場にいないのだろうか。私の疑問に気づいたのか、飛影さんが説明してくれる。
イチガキさんの手下に足止めを食らったこと、イチガキさんは師匠を人質に取り、人間を操っていること。敵の鋼の魔物を乗っ取り、手下に幽閉場所まで案内をさせたこと。
つまり、わたしが聞いたのは幽閉されている師匠さんの声だったのだ。
納得したところで、妖怪と蔵馬さんと、それから蔵馬さんに抱えられた痩せこけた男の人が崖の下から登ってくる。
声を出すのもやっとという男の人から症状を聞き出した蔵馬さんは、どこからか取り出した薬草を煎じて解毒剤をつくる。弱った患者を地面に寝かせるわけにもいかず。私は膝を枕にして彼の頭を横たえた。病人特有のすえた臭いがする。髪の毛は栄養不足で白くパサついていて、身体は成人男性とは思えないくらい軽い。

「解毒剤は作って飲ませました。体力の回復はしばらくかかるが、これで死に至ることはなくなった」
「あり、がとう……恩に着る……」

男性は蔵馬さんの手を握り、それから私を見上げた。節くれだった手が、私のチョーカーに触れる。

「これは、くちなしの呪い……だね」
「! わかるんですか……?」
「すまないが、解く事はできない。が、身体がもう少し戻れば……呪いを軽くすることは……出来る」
(!!)

思わず蔵馬さんと顔を見合わせる。思わぬところで糸口が見つかった。蔵馬さんは立ち上がり、私と男性を一瞥した。
「オレたちはいますぐ会場へ向かいます。ちゃん、彼の回復を待って会場へ」

会場では、未だ師匠が助け出されたとは知らない弟子が戦っているだろう。ともかく今は対戦をどうにかしなければ、2人の到着をお兄ちゃんたちが待っているだろう。
こくりと頷くと、蔵馬さんは念押しするように私を見つめて、踵を返した。心配せずとも会場は近いうえ、妖怪達は戦いに釘付けだ。滅多なトラブルには出会わないだろう。
去っていく機械と妖怪と仲間ふたりを見送り、再び男性を見下ろす。呼吸が落ち着いてきて、顔色はだいぶ良い。

「わたしは、三田村というものだ……」
『桑原です』

くちなしの呪いに詳しいらしい彼は、何も言わずとも私の症状を理解している。まだ声帯が本調子ではない彼と喋れない私、とても静かな会話だった。

「術者の腕が良いのだろう、非常に上手くかかっている……」

鴉は、呪術に長けているのかもしれない。そんな腕を私相手に披露して欲しくなかった。
三田村先生は私の肩を支えにゆっくりと身体を起こす。もうそこまで回復したのだ。蔵馬さんの薬は恐ろしいほど効く。

「歩きながら、はなそう。きっときみも……呪いを理解しきっていないだろう」
こくりとうなづいて、彼の背中に手を当てる。杖にするにしてはわたしは小さすぎるが、それでもないよりは良いだろう。三田村先生の腕を私の肩に回して、ふたりでゆっくりと歩みを進める。

「くちなし……死人に口無しともいうが、この場合は君のように若い女の子が、誰かを誘わないよう口を塞ぐ術だ
「くちなしの実は熟しても割れない、貞淑さの象徴だからね……。術者が君にどういうつもりでかけたかは知らないが……本来の用途はそれだ
「夫となるものが伴侶となるものに使う、呪いだ
「だから、術者と君は魂で縛り合う。形はどうであれ、魂のパートナーとなる」

魂のパートナー。よりにもよって鴉と。そもそもどこのいつの文化か知らないが、伴侶相手にそんな呪いを用いるなんてかなり非人道的だ。魂レベルで術者と被術者を縛り合うなら、術者としても気軽なものではないだろう。術者自身が夫となるものである必要があるのであれば、更に利便性は下がる。効果の割にそれでは、この呪いが廃れた理由もわかる。
一方的に私の魂が縛られるのではなく、鴉の魂を持って私の魂を編むように縛るのだ。縦の糸はあなた、横の糸はわたし。織りなす布がいったい何を意味するのかは知りたくない。私の本当の……あるいは過去の名前を知られてしまったのは、そのあたりが原因かもしれない。そのわりに、パートナーである私には鴉の秘密がなにもわからないのは理不尽だけれど。そこは術者と被術者の関係性だからだろうか。

「だからこそ、今の君はパートナーの力を持って…守られているはずだ」
(え!それは初耳なんですけど?)
「パートナー以外の……攻撃性を持った妖術は届かない、はずだ」

妖怪に攻撃される機会がなかったので気づかなかった。だったら、蔵馬さんたちに気にかけていただく必要はなかったのではないだろうか。これは朗報だ。妖術は、ということは物理攻撃は普通に効きそうだけれど。

「私の力が、戻れば……少し呪いを軽減できる……パートナーの守護は弱まるが、少しは喋れるようになるだろう……」

俄然期待が湧いてきた。それにはまず、彼の弟子達を助けなければ……会場はもうすぐそこだ。


会場では、ちょうど浦飯Tの勝利が決定したところだった。夢で見たとおりのイチガキさんが、三人の男の死体が転がるリングに立つ幽助と、飛影さんと蔵馬さんに囲まれている。

「い、いいのか!?ワシを殺せば奴等の師匠も死ぬぞ!?居場所も病気の解毒剤の作り方もワシしか知らんのだぞ!!」
「そうかな?」

私と手を繋ぎ、場外の壁を沿うように歩んでいた三田村先生を蔵馬さんは腕を組んだまま指で示す。

「貴様……」

私とは穏やかに話していた三田村先生は打って変わって怒りをにじませてイチガキさんを睨んだ。強く手を握られて、痛いくらいだ。

「貴様の助手が全て教えてくれたぞ、幽閉場所もな。解毒剤は蔵馬がカンタンに作ったぞ、症状を見ただけでな」
「もっと強力な毒草の育て方を教えてやろうか?」
「覚悟はいいか!?カス野郎」

3人に睨まれ、追い詰められたイチガキさんは何かを己に注射し、その姿をより妖怪らしく変化させる。しかしそんな小細工すら幽助の神経を逆なでしてしまい、彼は1発で場外まで吹き飛んだ。

「……こんな、老いぼれがおめおめと生き残ってしまった……!!円…梁…魁…、彼らになんと詫びればいいのだ!!」
(三田村先生……)

体を震わせる三田村先生に、幻海師範は強く告げる。

「悲しむことはない」

「ま、まさか!?」

リングの上では、先程まで倒れふしていた三人の男が起き上がるのが見えた。皆一様に背中を負傷している。あとから聞いたのだが、そこに操作器官となるコブを寄生させられていたらしい。

「円!!梁!!魁!!生きていたのか……」

そこから先に首を突っ込むのは野暮というものだろう。わたしはそっと三田村先生から手を離す。先生はまだおぼつかない足取りでリングに上がり、自らの罪を悔いる弟子達に叱責した。
彼らの心の奥底の、尊いまでの輝き。それは例え肉体を操られようと汚されることのないものだった。

「さあ……こっちを向いて手を貸してくれないか。久々にどなったら足元がふらついてしまったよ…ハハ」

涙しながら膝をつき、先生と弟子は熱く抱擁をかわした。


(お兄ちゃん!!)

兄の負傷は激しい。恐らく、対戦相手が操られている善良な人間であったため本気を出せなかったのだ。幽助が抱く兄に駆け寄り、意識のない手を握る。

「手伝おう……」
「お…すまねぇ」

戦闘直後の幽助と弱い私では体格のいい兄を支えきれない。
三田村先生の弟子が助力を申し出てくれるので、甘えることにする。

「この償いはオレの全てにかえてでもさせてもらう!!共に闘わせてくれ!!彼の代わりに!!」
「気持ちはうれしいが」
「し、しかし!」
「そんな事したらこいつにぶっとばされちまう。オレはまだ戦えるぞバカ野郎ってな」

幽助の言葉に思わず笑がこぼれる。兄ならばきっと言う。負けず嫌いだし、例え己を守るためだったとしても仲間はずれは嫌いなのだ。

「それに、補欠は一名だけしかも仲間が死んだ時のみ。うちの補欠はそいつだしな。それが大会規定だからな」
「…………そうだったのか、君が……」

手がふさがっているため幽助は顎でしゃくって私を示す。弟子の男性は、浦飯Tの補欠が無力な女子だったことに驚き、心配そうな顔をした。
兄を膝に抱いて場外の壁際に座るったところで、会場のブーイングを制して審判が衝撃の放送をする。
《皆さん静かにお願いします!では、これより2回戦を行います!!》
「!?」
(!!)
モニタの表示が切り替わり、トーナメント表が映し出される。イチガキTが敗退したので、次の相手は魔性使いTだ。
「連戦!?」
「一体どーゆーことだ!?聞いてねーぞ!!」
詰め寄る幽助に、審判兼司会進行は慌てる。彼女とて末端の雇われ司会だ。責めても仕方ない。むしろレフェリーという役割上、この会場においてかなり私たちにも公平にしてくれているほうだ。
観客は一気に歓喜し、またも殺せコールが鳴り響く。
アウェイの観衆が湧く中、グラウンドから出ていくため弟子達に支えられた三田村先生が私に声をかける。

「今出来る範囲で軽呪しよう……みんな、力を貸してくれ」
「はい!」
(三田村先生……)
まだ回復しきっていない三田村先生は、それでも弟子ともにチョーカーに手をかざし、軽呪を行う。それは特に呪文もなく、光ったり温まったりというアクティブさもなく静かに行われた。私としては、今なにかされた?というくらいスタティックなものだった。
「すぐには効かんが……少しずつ喋れるようになるはずだ。試合が終わったらもう1度見てやろう」
こくりと頷いて、親指を立てる。三田村先生も悲愴漂う微笑みをして、サムズアップで応えてくれた。私の精一杯の強がりを受け止めてくれた笑みだった。


兄の治療をしていると、魔性使いTの入場がなされる。風に包まれるようにして現れたのは、覆面と大きな外套を羽織った者達だ。性別も体格もわからない。

「桑原は今回はとても戦えねェ。オレ達4人でなんとか戦わなきゃな」

幽助はそう言うが、気を読んでみると兄ほどでなくとも皆力を使い果たしていた。幻海師範ですら、大技を使った影響か残りの霊力は少ない。これは本当に私の出番があるかもしれない。
魔性使いTの1人が強い風で外套を吹き飛ばし、現れたのは角が生えた男の子だった。
有名人らしい、彼の姿を見て観客がざわめく
「陣だ!風使いの人生だぜ!!」

「風使いの陣!!それじゃまさか奴らは」
「知ってるのか?」
「ああ、かなり有名な妖怪だ。魔性使いとは仮名だったようだな。奴等の正体は魔界の忍だ」

忍。忍者というわりに顔が割れてしまっているみたいだが、その上でも問題ないくらい強いのだろう。

「妖怪同士の勢力争いの影で暗躍する先頭集団魔界忍者。奴等はその中でも最も恐れられている“修羅”の怪だ」

修羅、が地名なのかチーム名なのか他の固有名詞なのかはわからなかったけれど、伊賀忍者みたいなくくりで修羅忍者とかいうのだろうか。

幽助と陣さん向き合い、タイマン方式勝ち抜き戦と決まる。相手がゼロになるまで戦うということは、やはり覚悟を決めていた方がいいかもしれない。お兄ちゃんの手をぎゅっと強くにぎる。この戦いに彼は出なくていいのだから、もしかしたらお兄ちゃんだけ助かるかもしれない。不幸中の幸いというやつだ。

《えー、ここで2回戦の前に運営本部によるメディカル・チェックを行います。日程の都合上連戦となる浦飯Tの体調を考慮しての特別処置です》
「メディカル・チェック?」

スピーカーから響き渡る放送の内容に首を傾げる。もしかしたらお兄ちゃんを治療してもらえるかも、という期待はすぐに消えた。医療本部からやってきたナース服の女性は、お兄ちゃんには目もくれず飛影さんと覆面師範を指さす。
(ちょっと、お兄ちゃんは?)
「いらん世話だ。オレの後ろに転がってる奴をみてやったらどうだ?」
飛影さんがそう言ってくれるが、看護師らしき女性は頑として譲らない。2人をテントまでつれていき、問診を始める。
当然気に食わない飛影さんが皮肉をいうが、看護師は余裕の笑みを浮かべている。付き合っていられないとばかりに踵を返した飛影さんを、見えない何かが阻んだ。

「な…なんだあれは!?」
「結界だ」

看護師さんはおよそ機動力に欠けたタイトなナース服を脱ぎ捨て、糸のようなもので局部を隠したセクシーな半裸姿となる。
お兄ちゃんの意識があれば鼻の下をのばしていたであろう、顔の美しさもさることながらスタイルもよく、豊満なバストが糸で肉感的に縛られている。
「結界師の瑠架でございます。妨呪壁能力は魔界屈指と自負させていただいております」
つまり、これは体良く2人を隔離したのだ。これで戦えるメンバーは蔵馬さんと幽助と、補欠である私の2人+1人。どう考えても運営本部からの意図的な妨害だ。

(抗議します!!)
《ここで補欠の桑原選手から大きく抗議!》
「ひっこめー!!」
「文句あんなら口で言えこの●●●!!」
(っ!!)

ホワイトボードに大きく“抗議”と書いて掲げる私に、観客からブーイングが飛ぶ。一部発言には教育的規制をいれておいた。喋れないのは鴉のせいなんだってば。しかし反論できないのも確かなので、ぎゅうと唇を噛みしめる。くやしい。鴉のバカ、なにが“お前は誰のことも相手にしてない”よ!局所的には普通に傷つくっての。

しかしこの相手チームにとって有利な展開に、陣さんはなんだかつまらなそうな顔をした。
「気が変わったや、だれかいってけろ」
そう言い始めて、チームメイトの1人ともめている。結果、陣さんは休みを勝ち取り壁際に座り込んだ。円周上の異なる1点にいる私と目が合い、ニコニコ笑って手を振る。無視するのも変かと思い、首をかしげて手を振りかえした。不思議な人だ。
陣さんの代わりに出てきたのは、バンダナを巻いた塩顔半裸の男性妖怪だった。その妖気は強い。

「オレが全員でかたづけると言いたいがら奴等の妖気がそうさせてくれそうもない。できる限り奴らの手の内を暴いてみせる。………その後は、頼む」

覚悟した顔の蔵馬さんは、私に告げる。

「大丈夫。絶対に、キミを守るから……」

観客の殺せコールの中、浦飯T対魔性使いTの戦いが始まった。