06

一杯で酔うなんて、さんはお酒が弱いようだ。あるいは本人の申告通り、寝不足故なのかもしれない。どのみち2日に1度床で寝る生活が限界だったのだろう。あれではきちんと休めるはずがない。
自分の作った夕食を食べてシャワーを浴びたあとに、暑いからとさらにビールを開けた彼女を止められなかった。というか、彼女の後にシャワーを浴びている間に先に始められていたので止めようがなかった。

「……もう完全に酔ってますよね」
「そうかも!」

夕食の頃は少し醒めていた頭は再びアルコールに沈んでいた。今度はさっきよりも深く。
頬にも朱が差しているし、目もすわっている。

「んん、ねむい……」
「もう休みます?」
「んー……」

自力で支えきれなくなった頭がこちらへもたげられる。自分と同じシャンプーを使っているのに、さんの匂いはより甘い気がした。
さんは小さくてしなやかな手を伸ばして自分に乞う。

「ベッド、はこんで……」
「………」

子供を抱えるように持ち上げて、すぐそばのベッドに軽い身体を下ろす。小さな部屋だから3秒足らずで運べた。
寝かしつけようとするが、彼女は自分の首に回した手をはなしてくれない。

「いっしょにねるんでしょ……」
「…はい」

しれっと彼女だけベッドに寝かせて自分は床で寝るつもりだったことがバレている。

「私とねるの、いや?」
「や、滅相もありません」

そんな聞き方をされると嫌とはいえないだろう、嫌とは。
さんは嬉しそうに、酒で弛緩した頬を更にふんにゃりと緩めて笑う。可愛い人だ。

「では、失礼して」

2人分の体重で、ぎしりとベッドがきしむ。もともとそう大きくないそこは二人入るとさらに狭くなった。
ぎゅうと身体を密着して、足の間に彼女の足を挟まなければいけないほどに。

「寝れますか?」
「うん……」

もうほとんど夢の世界の住人だ。腕に抱いた頭をつい撫でると、さんは気持ちよさそうに微笑む。

「ルクさん、おやすみ……」
「おやすみなさい、さん」

今日も安眠できなさそうだ。