少女が来りてなんか言う

学校の生徒が死んだらしい。
一日の終わりのHRで先生はそう告げた。
なくなった生徒は浦飯幽助先輩、ひとつ上の学年で私の“お兄ちゃん”の喧嘩相手である。
手下の沢山いるものすごいワルで、喧嘩負けなしでここらへんで万引きやカツアゲを繰り返している生徒で、先生も持て余している。
そんな生徒なので教室も悼む気持ち一色とはならず、どこかふわふわとした現実感の無さと平穏への少しの安堵とほんのちょっぴりのぎこちなさが残った。

「ねえ、あんたの兄貴、たしか浦飯に連戦連敗じゃん」
「ほんと……こういっちゃあなんだけど、勝ち逃げ……だね」
「うん……」

私自身も、大して知らない不良の訃報に対して気持ちが処理しきれない。
真っ先に浮かんだのはお兄ちゃん、大丈夫かなぁという感情だ。兄は浦飯先輩に挑んでは負けていてそれでも勝つことを目標に頑張ってきたので、こんなかたちでそれが終わるなんてあんまりだ。

連絡でもとりたかったが、この時代スマートフォンなんて便利なものはない。パソコン通信だってまだ黎明期だ。不便な時代だと思う。
大人しく帰宅して夕食を作っていると、彼は舎弟に連れられていつになくぐったりした様子で帰ってきた。

「おっ……お兄ちゃん!?」
「………………」
「あ、さん……、桑原さん浦飯の通夜からこんな感じで……」
「……連れ帰ってくださってありがとうございます」

舎弟二人が慣れたように家に上がって兄を部屋のベッドにつれていく。浦飯先輩に“ノされた”時はいつもこんな感じだけど、今日は勝手が違う。永遠のライバルを喪ったのだ。絶望は私には計り知れない。

「じゃあ、さん。あとお願いしますね」
「あ、お茶でもお出ししますね……」
「いえ、あんま長居すると桑原さんに怒られるんで、帰ります」
「そ、そうですか……」

キッチンへと立ち上がりかけた私を制して、舎弟二人は帰っていった。
美人で強い姉と違って頼りない私は、いつも兄に心配されていてわりと過保護に育てられた。本当は私のほうが歳上なんだけど、そんなこといっても仕方ない。実際私にできることなんてない。普通の娘だ。霊感的なものはすこし強いけれど、それは兄も姉もだし。

「…………うう〜……浦飯……」

朦朧とした兄が浦飯先輩を呼ぶ。飼っている猫が心配して兄にすり寄った。
制服の詰め襟をすこし緩めてやって、私は夕食作りに戻った。せめて兄の好きな豚カツにしてあげよう。