食欲の秋

(警部とJK探偵シリーズ設定)


 綾小路警部的に、私は食いしん坊ということになっているらしい。三度の飯は事件より大事、食欲ないのは一大事。お肉が好きでお魚が好きで、お野菜はまぁまぁ好きで、甘いものが大好きで。そんな“像”が警部の中には出来上がっている。出張の際はお土産を欠かさないし、貰い物のお菓子は大抵私の手のひらの上へと乗せられる。事件の前後、タイミングが良ければ必ず食事を奢ってくれるし、そうじゃない日も“お礼”と称してなにかと食べさせてくれる(というか、奢らせてる。だって警部にいつも会いたくない?)。なんか知らないけどたまに仕出し弁当のあまりも貰ったりする。
 そんな光景をしょっちゅう目の当たりにしているからか、一課の皆さんは差し入れのお菓子をきっちり私の分まで用意し出す始末だ。欠食児童と思われてるのかもしれない。



 そういう生活を続けていたからだろうか。お風呂上がり、ちいさく悲鳴をあげるハメになってしまった。別に覗き魔がいたわけでも生活虫Gが居たわけでも、幽霊が見えたわけでもない。幽霊なんてものがいるのなら、私はとっくにありとあらゆる人に取り憑かれてしまっているだろう。
 ただ久しぶりに、なんとなく……ほんとうになんとなく目に付いた体重計に乗ってみただけなのだ。貰い物の、針が振れるだけの安物の体重計。お風呂上がりのまだ湿った身体にタオルを巻いて、バナナの量り売りみたいにその上に足を乗せた。
 そして悲鳴をあげてから二度見して、バスタオルを外した。三度見した。頭を抱えた。
 この世界に私という質量が増えている。


「……まずい……」


 思い起こせば、なんとなく腰周りがやわくなった、気がする。太もものラインが変わった、気がする。気になる部分をつまんでみれば、暴力的な現実に頭を殴られたような衝撃。
 言い訳になるが、このごろ探偵業が忙しかったのだ。普段は運動部に混ぜてもらったりジョギングしたりとしていたが、ここ最近は放課後には京都府警、ショッピングにきたら事件、お休みの日は警部とご飯だ。食費が浮くから助かるが、時間が圧迫されてしまっている。成績落としたらもう呼ばないと警部にきつく言われているため、空いた時間は勉強に宛てがうしかない。いや、これもまた甘えか。少しの継続が違った未来を作ったはずなのだ。自律心の弱さがこのザマである。私のバカ。なぜベストを尽くさないのか。


「だ、ダイエット……ダイエットだこれ……」


 頭の中で妄想上の警部がリフレインした。──リスより重い子ぉはちょっと……───。
 ボディバランス以前に、物理的に無理難題である。


はん。これチョコレートなんやけど……」
「えっ」


 なにがしかがしで貰ったという菓子類を実家から押し付けられても、アラサーの男一人にはどうしようもない。ベルギーのなんとかいうメーカーのチョコレートは、以前もなにかの折に彼女にあげたことがあった。「えっ!? いいんですか!? すっごく高いんですよこれ!」やったー! と、大げさに喜ぶの姿は記憶に残っている。なるほど好物なのか、と記憶の隅に書き留めたのだ。大抵の物はよろこんで食べるが、中でも肉と甘いものは格段に嬉しそうにする。
 だから今日もいつもみたいに小躍りしそうな顔で「ありがとうございます!」なんて言うのだろうと思っていたのだが。


「……えっと……」
「……? どないしはったん? ここのお菓子、好きやろ?」


 は何故かぴくりと頬を引き攣らせて、差し出した小箱から距離を置くように一歩遠のいた。困ったように瞳をさ迷わせ、華やかな装飾の箱を見ようともしない。


「……あ、の、ごめんなさい。わたし、いいです」
「え?」
「先日の報告、車折さんに渡してるのでっ……今日は急ぐので、これで!」
「あ、ちょ、はん?」


 引き止めるまもなく、脱兎のごとく去っていく背中を見守る。小さくなって行く人影と、手元の箱を見比べシマリスとともに首をかしげた。いったいどういう風の吹き回しか。が食べ物を受け取らず、ろくにこちらと会話もしないなんて。


「……あの子、どないしたんやろ」
「ああ、やっぱり警部もおかしいと思われました?」


 振り返れば、書類を持った車折刑事が怪訝そうな顔を浮かべている。その背後の1課の面々もこちらを注視していたらしい。変なものを食べたみたいな顔をしていた。
 その中の一人、比較的若くと仲の良い女性刑事が困ったように首をかしげる。


ちゃん、私がケーキ屋さんの割引券あげようとしても断ったんです。“多分使わないから”って…」


 あんなに甘いもの好きなのに…、と。それに呼応して他の刑事も声を上げる。「ドーナッツ分けようとしたら、ええって言わはりました」だの、「コンビニでなにかをじーっと悩んでました。結局なにも買わずに出ていきました」だの。目撃されすぎじゃないかと思いつつ、部下達の心労の一因を洗う必要もありそうだ。は警察内でもかなり顔が知れていて、こと自分の直属の部下達のあいだではモチベーションにも関わってくる話題だ。大なり小なり、それぞれから“守るべき一市民”であり“京都を代表する高校生探偵”であり、“懐いてくれる顔見知りの子供”といったキャラクターで捉えられている彼女は、ある意味で1課のマスコットと言えなくもない。
 それに、自分自身としても。彼女のことが気にならないという感情が全くないわけでも、ない。あくまで責任者としての範疇だと言い張るが。


「そもそも、ちゃんが警部を前にしてあんなさっさと帰るとは……」
「やー、あの子にもそんな日はあるんやない?」
「三度の飯より綾小路警部が好きな子が?」


 腕を組んでうんうん首を捻る刑事たち。その中の一人、男性刑事が「あの…」と控えめに手を挙げた。この中で一番若手で少しうだつの上がらなそうな雰囲気のある男を、は割と信頼しているようだった。


「こないだ縄手通りの雑居ビルでさんを見ました」
「あのあたりで? 女子高生が行くとこちゃいますよ」
「時間は18時くらいでしたから……。でも、変やなぁ思て見てたら背の高ぉてえらくガタイのいい男性も出てきまして。えらいさんと親しげでしたけど……。」


 縄手通りには旧態依然の街並みと猥雑な夜の店が立ち並ぶ。まだ少し明るい夕方の時間帯はちょうど空白期間なのか、人もまばらで空いている店のほうが少ない。終業とともに仕事を片付け教えられた雑居ビルの前へと向かった、自分の行動力に我ながら驚く。いや、普段の捜査でもなるべく自分の目できちんと見よう頻繁に足を運んでいるのだから、これは自分にとっていつものことだ。何の変哲もない、日常の延長。そう言い聞かせてビルのネオンを見上げた。白地に発光する看板にはビルのテナント名が各々のフォントで書かれている。全容のわからない店舗名もいくつかあるが、一見すると場所柄に相応しくバーとキャバクラと飲み屋が多そうだ。
 階段を誰かが降りてくる音がして、反射的にもの陰に隠れる。「───なんですよね」と、よく聞きなれた声がした。だ。


「じゃあ、ありがとうございます」
「こちらこそ。助かったよ」


 そっと覗けば、よく見知った少女。ジーンズにシャツというラフな私服姿をして、やけに荷物が多い。いつも通学に使うリュックにプラスしてなにか大きな紙袋。
 その前に立つ男性には見覚えがない。背は高く、おそらく自分より少し大きいかもしれない。きちんと鍛えられたというふうな筋肉をしており、足などまるでアスリートのようだ。純粋に力比べをしたら自分など到底叶わないだろう。明らかにただ者ではない。
 男が手に持っていた茶封筒を彼女に差し出すと、は少し遠慮するような顔をする。表情からして、きっと金だ。


「じゃあ、これ」
「ほんとにいいんですか……?」
「いいよいいよ。久しぶりにちゃんが来てくれてほんとよかった。またお願いしていい?」
「うーん、タイミングがあれば……」
「お願い! ちゃんいるとみんな喜ぶんだ。……あ、次はカメラ回していい?」
「ええっ、か……カメラですか? それはちょっと……恥ずかしいなぁ…」
「やっぱ動画あるほうがいいからさ! 体つきとかもわかるし、顔バレやばいなら編集するから!」
「……そう、ですか……」


 カメラに体つき、顔バレ。なんとも不穏なワードが飛び交っている。不意に頭をよぎるのは朝のニュースだ。適当に柔らかい言葉で誤魔化された、未成年売春スレスレの店を摘発した話。
 最終的に、ははずかしそうに頬を染めて身体を縮こまらせたあと、「勇気がないので、もうちょい考えます…」と言って手を振って去っていった。男もそれを見送って、ビルのエレベーターへと入っていく。
ライトを確認すれば、3階で停止したようだ。案内板を見る限り3階には五部屋、店舗は三つ。女性名を冠されたスナックらしき店が二つに、なにかの事務所がテナントされていた。


 事務所名で調べれば、出てきたのはマイナーな芸能事務所だった。ホームページは簡素な情報だけで、なにをしているのかよくわからない。
 足は勝手にの家へと向かっていた。その道中、概ねの可能性は嫌という程精査した。あの二人の姿を見て以来、無性に胃がムカムカして落ち着かない。ストレスかもしれない。
 の反応からして、お金がもらえるのは嬉しいがあまり積極的というふうには見えなかった。どうもあの男性に押し切られている形に見える。
 考えられる事態はいくつもあった。例えば、彼女がなにかトラブルに巻き込まれているとか、怪しい仕事をさせられているとか、そういったことだ。
 日本の安全神話など神話でしかなく、老若男女問わずなにかのタイミングでふいに事件に巻き込まれてしまうことは職業柄よく知っていた。特に、未成年の女子……それものように親元を離れた一人暮らしの女の子などは格好の餌食だ。時代が変わろうと、世間が変わろうと、手を替え品を替え繰り返されるのが未成年略取や暴力だ。
 あの好奇心旺盛かつ高機能でお人好しという、およそ人として最高に最悪の器用貧乏がトラブルに巻き込まれる可能性は極めて高い。同級生を庇ってだとか、なんかそういうアホみたいに単純な理由で。
 痛む胃を抑えながら、どうやら帰宅しているらしい窓を見上げる。シンプルなカーテン越しに、部屋の明かりが見えた。
 いささか行動がストーカーじみてきた自覚はある。だが、心配して家を尋ねるくらいの親交は深められているはずだ。彼女がどう思っているか定かではないが、私はあの子のお目付け役であり、友人だ。
 困っているのなら力になってやりたいし、トラブルに巻き込まれているのなら解決したい。もしも彼女が自主的に良くないことを行っているなら、諭してやるのも自分の責務だ。
 …………綾小路班の士気にも関わることである、ことだし。
 いささかセキュリティに不安のある安普請の学生向けアパート、その2階に上がってインターフォンを押す。程なくして「はーい」との声がして、不用心にがちゃりとドアが開いた。


「……綾小路っ…けいっ…!?」
「おばんです」
「ど、ども……えっと………上がります?」


 アポのない突然の来訪に、部屋着のは目を白黒させた。返事をする前に部屋に引っ張りこまれて、1Kの部屋へと通される。の部屋に来たのは随分久しぶりだ。芳香剤なのか、少し甘い匂いがする。女性の部屋というのはいい匂いがするから不思議だ。


「えっと、紅茶でいいですか?」
「いや、気ぃつかわんと……」
「突然どうしたんですか? なにか事件?」
「事件っちゅーか……なんっちゅーか……」


 要領を得ない男を前にして、は首をかしげる。部屋の真ん中のローテーブルにクッションが置かれ、とりあえず座るように促された。あまりきちんとした来客は想定していないらしい。部屋にテーブルはひとつしかないので、勉強も食事もすべてこれで賄っているのだろう、生活感が見て取れた。


「…………その、最近なにか変わったことは?」
「え!? あ、ありません、よ…?」


 少し探りを入れてみれば、あからさまに動揺して視線をそらされる。挙動不審に体を丸めて、クッションをぎゅうと抱きしめる様は心配の一言に尽きる。本気でなにか起きてるんじゃないだろうか。


「ほんまに? 些細なことでええんですよ」
「あ、ありませんったら! 急にどうしたんですか?」


 そんなことより、こないだの事件ですが! と、明確に話題を逸らそうとする彼女の肩を掴むと、が目を見開いた。じっと顔を見つめれば対処に困っているのか視線を逸らすことさえ忘れている。普段押しが強いが押されるのに弱いことは、もうとっくの昔に知っていた。


「今日、縄手通であんさんを見ました」
「へっ」
「あの男は誰なんや? えらい親しげやったけど」


 おや? 自分が聞きたかったのはそういうことだったっけ? 勝手に口をついた言葉に心中で困惑しながらな返事を待つ。はぱっと頬を赤く染めて(なぜいま赤く……?)口をぱくぱくさせて(金魚みたいだ)、瞳を潤ませて(だから、なぜ…?)私を見上げた。


「け、警部……」
「うん?」
「嫉妬ですか……?」
「……はあ!?」


 キラキラした瞳で見つめられて少したじろぐ。いつものことながら、なんて突拍子のないことをいう子なんだ。嫉妬? 自分が? だれに?


「そんなに私の動向が気になるなんて……警部ったら結構ソクバッキーですね」
「バッキー!? なに!?」
「私がどこに行って誰と会ってるか気になって、家にまでおしかけてきちゃうなんて……」
「ち、ちが、私はただ心配で…」
「心配しなくても、私が好きなのは警部だけです!」


 にっこりと花が咲くように笑う彼女の言葉が、まったく理解できない。会話しているようで出来ていない。肩から手を離して身を引くと、今度は彼女の方がにじり寄ってきた。


「好きですよ、警部。そういうところが」
「そ、そんな話しとるんとちゃいます! 私はただ……」
「ただ?」
「あ、あんさんがなんやけったいな事に巻き込まれてるんやないかと……」


 少年課の刑事に聞いたなにがしかがしの犯罪が頭をよぎる。そのいずれに巻き込まれていようとも必ず、警察の威信をかけて犯人を挙げてやる。
 そう思って見れば、はぽかんと「何言ってんの?」という顔をした。ぱちぱち瞳を瞬かせて、どうやら私の言ったことを反芻している。たっぷりとしたローディングのあと、先程まで輝いていた瞳がぎゅうと細められた。


「……………警部、わたしが“売り”でもやってるって思ってました?」
「いっ、いや! そこまで言うてへんけど……なんや如何わしいことに巻き込まれとるんや……ないかと……」
「あの人はジムのトレーナーです!」


 ほら!名刺! 小物入れから取り出してきて、差し出された名刺にはよく知らない会社名と「フィットネストレーナー」の肩書き、それから名前。裏面にはどこかのボディビル大会の受賞歴が書かれている。怪訝そうにするに見守られながら名前をネットで検索すれば、先程の男性が画面に現れた。それからSNSも。男性と、その妻らしきお腹の大きい妊婦。その背後の鏡越しに、後ろ姿が映り込んでいるのはどうやらだ。知り合いであるからこそ背格好だけで分かる。


「な……ど、どういうことなんです?」
「あの人は私が元々行ってたサバットジムの人です。暖簾分けして女性向けフィットネスクラブを作ろうとしてて」


 ほら、あの辺りの美意識高い女性向けに。そう言われれば需要がないと思わなくも、ない? コンパニオンの女性は容姿を磨くのを重要視する。うまく営業時間を合わせれば人は入るだろう。


「で、いま準備中でその雑用してるんです。この通り奥さんは身重だし……あ、この奥さんもすごいビルダーなんですけど」
「はあ……」
「知り合い呼んで体験教室始めてるんですけど、アシスタントで女手が欲しいからって」
「ほ、ほんならあのなんとか言う事務所は?」
「ああ、同じフロアの? たしか美術系やポートレート用のモデルさんとかが所属してる事務所だった気が……」


 全くの無関係らしい。そのフィットネスクラブとかいうもの、本営業前ならネオンに店舗名が入っていないのもおかしくはない。


「ほ、ほんならビデオとかは……」
「そこまで聞いてたんですか!?…… いやほら、いまってSNSの宣伝が主流なので……ネットで、初心者向けに正しいトレーニングのフォームを発信したいからモデルになってほしいとか……」


 恥ずかしいし、ネットに出回るのはなんか嫌なんで断ろうと思ってます。とややはにかんで言う、緊張感のない表情に脱力した。どうやら本当に杞憂らしい。よかった、危険なことに巻き込まれているは居なかった。その安堵にそっと胸をなでおろした。正直、彼女が本当になにか嫌な目にあっていたとしたら正気じゃいられなかっただろう。身近にいたのに気づけなかった自分を責めたし、相談してくれない彼女に失望したかも知れない。いや、子供の判断力を過信しすぎてはいけないか。本当に、ちょっとしたことで大変な自体を引き起こすのだ。この年代は、この少女は。大人が躓かないような石にも平気で引っかかる。危なっかしくて目が離せない。


「でも、時間の融通利かなくなっちゃうんでやっぱり辞めようかなぁって」
「今日早めに帰らはったんは」
「シフトがあるからです」


 運動着に着替えなきゃいけないし、はやめはやめに動かなきゃなんですよね! と不満そうに呟く。あの荷物は着替えだったのか。
 とにかく今回は何事もなくて本当によかった! その安心が口を緩ませたのかもしれない。子供の判断力の前に自分の判断力だ。ほんの世間話のつもりで「なんで急にバイトなんか…」と話題は多忙の理由の方へシフトする。ちなみに事の発端である、食料品という食料品を遠ざけられた事案については、後半のインパクトに飲まれてすっかり忘れてしまっている。


「そ、それは……その……さ、最近ちょっと太っちゃったし、運動とバイトいっぺんにできて丁度いいかなぁって……」
「あー、確かにはん、ちょぉ丸ぅなりましたね!」
 

 絵に書いたような失言であった。


「警部、その頬どうされたんですか?」
「リスにでも引っかかれはったんです?」
「……いや、ちょっとな……」


 翌日、頬に湿布を貼って登庁した上司を見て刑事たちは目を丸くした。その下に咲くのはリスの噛み跡でも引っ掻きあとでもなく、女の子の平手打ちでできた紅葉の痕だ。完璧なフォームによって繰り出された結構渾身のヒットだった。あの子は案外やる子である。思わずやってしまったのかそのあと半泣きでしこたま謝られたけど、瞬発力は評価に値する。


「そう言えば、さんの件どうなりました?」
「あー……。まぁ、私たちが心配するようなことはなにもあらしまへん。来月にはいつも通り府警にも顔出せるそうです」
「へぇー、さすが警部。ちゃんのことは警部に任せるのが一番ですね」


 目の前にいた車折刑事は、それからふいに思い出したように笑った。視線で続きを促せば、あわてて取り繕うような顔をする。目元は穏やかに緩んだままだ。


「綾小路警部、昔は“子供が頻繁にくるとこじゃない”っていってちゃんを遠ざけてたのに、今じゃすっかり逆ですね」


 そういえばそうですねー、と和やかに笑う部下達に対して返せる言葉は何もなく、ただただシマリスと顔を見合わせることしか出来なかった。