03

(童守町のみなさんと)



 春っていいですよね!
 花は咲き乱れ、空は青く空気は暖かい。人々もどこかウキウキと足取り軽く、みんなが幸せなら私も幸せ!


「学校は桜が見れるからいいですよねぇ」
が神様としてそれでいいならいいけど……」
「鵺野先生の甲斐性無し」


 百葉箱の神様みたいになってる私はお供え物のおまんじゅうを食べます。校長先生が備えてくれたのです。酒まんじゅう。美味しい。
 ここらでいっぱい熱いお茶が怖いということで、給湯室で熱い日本茶を入れて来た鵺野先生は私にお供えしてくれます。熱い日本茶。美味しい。私は基本的にお供え物しか食べられないのです。そもそもものを食べる必要ないんですけどね。
 お返しに鵺野先生にはおまんじゅうをおすそ分け。


「はー、今日の晩メシこれだけか……」
「そこまで逼迫してるんですか先生……」


 この人強い霊能力者なのに。その気になればいくらでも儲ける術はあるのに。不器用というか真面目というか。放っておけないんだから。


「あ、自称神の変な女」
「いずなちゃん。あれ、学校はどうしたんです?」
「始業式だっての。あんたこそ、昼間っからいっつもふらふらしてていいの?」
「まぁ神様ですので」


 いずなちゃんっぽく胸を張ればなんだかげっそりと呆れ果てた顔をされました。おや、ウケませんかね。


「センスがおかしいわよあんた」
「ひどいなぁ」


 おっと本題。せっかくお友達に会えたのでお誘いしたいですよね。ええ、いずなちゃんは友達ですとも! 私の精神年齢とも近いですしね。


「今夜童守小でお花見をするんです。いずなちゃんも来ませんか?」
「お花見ぃ? 小学校でぇ? あんた一体何者よ……」


 だから、神様ですってば。


 玉藻さんは相変わらずモッテモテですね。遠くから見ても女性看護師にちやほやされているのがよくわかります。入院患者さんらしい女性たちも遠くからちらちら見ては頬を染めてます。罪な男。


「たーーーーまもせんっせい!」


 イタズラ心で割って入ることにしましたよ。大きな声でお名前を呼べば、みなさんの視線が一斉に集まり痛い痛い。平気ですけどね、神ですし。社会的神霊ではありますが、その反面、人間社会とはどうしようもない隔たりのある存在ですので、今後の人間関係とか考える必要が無いのです。
 玉藻さんははぁと冷たくため息をついて頭痛でもするかのように額に手を当てます。呆れた、というエモーショナルなモーション。


さん。どうしましたこんなところで」
「世間話ですよ。今晩小学校でお花見をするんです。良かったらあなたもどう?」
「……どうせあなたの事だから鵺野先生の食い扶持でも探してるのでしょう」
「話が早いですねぇ。お待ちしてますよ、玉藻先生」


 行くか否かの返事を聞く前に踵を返します。あの人お仕事中ですしね。玉藻さんを呼び出すならこれくらいの引き際がちょうどいいです。律儀な人なので顔くらい出すでしょう。美味しいものを持ってきてくださればいいですが。


「鵺野先生、ほらはやく行きましょーよー」
「おいおいいったいなんなんだよ…。君はいつも元気だなぁ……」


 夕方におまんじゅう食べたきり、水を飲んで誤魔化している鵺野先生はぐったりと机に伏せています。こんな食生活でよく持つなぁ、25歳ってまだ若いですよ。ちゃんと食べなきゃ老後に響きます。
 無理くり腕を引っ張って、もうすっかり日の落ちた学校の廊下を進みます。夜はまだ寒いですね。窓から校庭に光が見えるので、先生は首をかしげました。


「がんばってる鵺野先生に、神様からの小粋な贈り物です」


 裏口の扉をばばんを開ければ鵺野先生は簡単の声を上げます。そうでしょうそうでしょう、随分方々を駆けずり回りましたからね。新米神様は幹事もできるんです。
 商店街でお借りしたライトで照らされた桜と、校長先生にお借りした備品のテントが薄白く輝きます。生徒はいません、夜になっちゃいましたしね。その代わり大人の時間、先生方はお酒を持ち寄ってくれました。え? いずなさんはいいのかって? ほら、中学生は小学生よりも許される範囲が大きいのですよ。
 玉藻先生は私のお家にワインをお供えしてくれています。あの人そういうとこ如才無い。ビールはゆきめさんがキンキンに冷やしてくれていました。


「せんせー! お待ちしておりました!」
「ていうかあんたこいつらと知り合いだったの……」
「鵺野先生、お先にはじめてますよ」
「今日は生徒もいませんし、無礼講ですな」
「一度帰ってお弁当作ってきたんです」
「み、みんな……」


 にぎやかな春の宴を目前にして、それから鵺野先生は嬉しそうに私を見ました。私は胸を張ります。いずなちゃんのおかげで、結構上手くなってきましたね。


「土地神様の面目躍如ですよ、先生!」